(1)      (昭和51年6月7日第三種郵便物認可)美術新聞社報 平成29年(2017) 11月21日(火曜日)
連載「燕京雑記」
燕京雑記(1) 横田恭三
投稿日時: 07年07月01日

 本年4月より1年間、中国社会科学院歴史研究所(北京)で海外研究の機会を得た。

 北京市内は、明年のオリンピック開催に向けて国民の意識をより一層高揚させたいためであろう、「奥運会(オリンピック)」関係のテレビ番組や行事が増えている。また、市内の至る所で建設工事が急ピッチで行われる一方、数多くの胡同(フートン:北京市の旧城内を中心に点在する細い路地のこと)が一つずつ姿を消している。

 「柳絮の舞」が市内の随所で見られる4月は比較的安定した気候だったが、地球温暖化の影響であろうか、6月に入ってから日中36〜37度にもなる日が続いた。北京の大気汚染はますます悪化し、街全体を濃霧がすっぽり覆ったような日が少なくない。中国南方では長江をはじめとする河川の汚染悪化のニュースが連日のように報じられている。雲南省昆明市にある■池でさえも異例の高気温のため緑藻が大量に発生し、飲料水問題が起きているという。

 日本もかつてこうした公害の時代を経てきているが、13億以上の人口を抱える中国は、さらに深刻な状況といえる。

 さて、今回から「燕京雑記」と銘打って、月1回のペースで中国の文字文化に関する情報や話題を取り上げ紹介していくこととする。
 第1回は、昨年5月にオープンした首都博物館新館をご紹介する。

 同館では先頃、近年宝鶏から出土した青銅器の特別展が開催された。今回は首都博物館の紹介と、この特別展の概要を述べることにしよう。


●首都博物館新館

 首都博物館は1981年、安定門の東南にある孔子廟・国子監内に建てられたもので、同館は、青銅器、陶磁器、書画、石刻、貨幣、玉器、印章、織物、竹・木製器具、象牙製品、文房具、民間工芸品などおよそ25万点を収蔵している。

 これまで廟と同一敷地内にあったため、博物館を運営するに際しさまざまな制約があり、博物館としての機能を一分に果たすことができなかった。

 1999年、この首都博物館の新館を市中心部の復興路に建設することが決まり、およそ6年の歳月を費やして2006年5月18日、正式にオープンした。ちなみにこの日は「国際博物館の日」に当たる。

 北京では当日は、様々な趣向を凝らした文化的な活動が催される。例えば、今年は市内26の博物館を無料開放したり、古代建築博物館(先農伝)では一般市民が持ち寄った「お宝鑑定会」を催したりしていた。

 さて、話を首都博物館に戻す。
 同館は建物は地上5階建て(地下2階)で、館内は大ホールを挟んで右側の展示場「方形展館」と左側にある巨大な青銅器を模した展示場「円形展館」の2つの部分に分けられる。

 「方形展館」は、特別展会場のほか、
  「古都北京・歴史文化篇」(2階)
  「古都北京・城建篇」(3階)
  「古代磁器芸術精品展」(4階)
  「京城旧事−老北京民族展」(5階)
と区分されている。

 階の歴史文化篇では、〈文明の曙〉から近代までの歴史文化に関する文物を展示している。注目すべきものは、西周早期に属す北京房山瑠璃河出土の〈菫鼎〉や、以前は石刻芸術博物館にあった〈幽州書佐秦君神道石柱銘〉(105)などであろう。

 「円形展館」は、1階から螺旋状に歩いて5階まで進むことができるのだが、異次元の世界に迷い込んだような錯覚を起こす空間である。ここは、
  「デジタル放映庁」(1階)
  「古代絵画芸術精品展」(2階)
  「古代書法芸術精品展」(3階)
  「燕地青銅芸術精品展」(4階)
  「古代玉器芸術精品展」(5階)
に分かれている。注目すべきものは、3階の書法関係と4階の青銅器関係の展示であろう。

 3階には、〈洛神賦十三行〉刻石(宋刻)が展示されている。この帖版は〈洛神賦十三行〉碧玉版のことで、俗に“玉版十三行”と呼ばれるものである。 明代万暦年間に西湖で発見されたと伝えられる。 厚さ1.5センチほどで、金属のような光沢がある。

 4階の青銅器は、瑠璃河から出土した西周早期の〈伯矩鬲〉〈伯■〉や、懐柔から出土した戦国中期の〈三角雲紋高足豆〉などであろう。青銅器の展示数は決して少なくない。

 館内は高性能の空調システムを採用しているため、倉庫や展示ホールの相対的湿度は変化の幅を2%以内に制御でき、展示ホール内の温度は外気温に応じて自動的に調節されるため、快適に見学できる…という謳い文句だが、特別展会場はどうしたことか、冷房が効きすぎていて、ことのほか肌寒く感じた。

 建物の周囲に目を向けてみよう。
 東側には土を掘って造られた竹林庭園があり、北側には緑の文化広場がある。 文化広場には通高6、7メートルもある清の乾隆御制碑(1753)が設置されている。 この碑は2006年4月、市内の先農伝より発見されたもので、重さ約40トン、漢白玉製のみごとな石碑である。

 いずれにしても、国内最大級の規模と最先端の設備を有した近代的博物館で、北京市の象徴的建築物の一つと位置づけられている。


新出土の青銅器展

 6月5日〜15日の10日間にわたり、大ホール1階(臨時展庁)で陝西省新出土の青銅器展が開催された。 近年、宝鶏の農民が発見した青銅器を次の6つのブースに分けて展示したもので、「后土吉金国宝薈萃−陝西宝鶏農民保護文化遺産成果展」と銘打たれていた。
 (1)「媚県楊家村村民発見」
 (2)「金台区長青村」
 (3)「扶風県紅衛村」
 (4)「扶風県五郡村」
 (5)「其他発見」
 (6)「赤子之心」
これらはすべて、2003年以降に発見されたものである。 順に眺めていこう。

 まず(1)のブースの展示品は、2003年1月媚県楊家村の農民5人が発見した西周青銅器である。

“■盤”(口径53.6センチ)の盤面には21行、372字の銘文が鋳込まれている。

 単氏家族8人が、西周十二代にわたる王の戦争・政治・林沢の管理などを補佐したことを記録したもので、歴代の王の名が記されている点でも貴重である。これらは窖蔵から発見されたこともあって、青銅器の表面には本来の輝きが残されていた。数年前、東京国立博物館でも“■盤”をはじめ多数展示されたので、ご記憶の方も多いであろう。

 ところで、この“■”をどう読むかは議論の分かれるところである。同行した歴史研究所副研究員の劉源氏によれば、この文字の音は「来」「佐」「弼」「仇」などが考えられるが、〈同■〉(『殷周金文集成』癸苅横沓院砲量段検峅μ親浦険Ω眤臧廖帖廚痢嶌検廚了形と旁が相似であることから、「佐」の音とするのが有力であるという。宝鶏青銅器博物館蔵。

 (2)の展示品は、2003年9月、宝鶏市金台区長青村の侯家大院后院の崖が暴雨によって崩れ発見されたもので、周代の文物30余件のうち青銅器は11件にのぼる。
 〈■方鼎〉の内壁に「■」が、〈史父乙方■〉の蓋内と器内に「史父乙」3字が鋳込まれている。西周早期の古■国(西周諸侯国、史書に記載なし)を研究する絶好の資料とみなされている。宝鶏市考古研究所蔵。

 (3)の展示品は、2006年1月、扶風県上宋郷紅衛村で発見された西周墓で出土したもので、青銅器などの文物は59件にのぼる。 この中には商末周初〜西周中期に至る青銅器などの文物が19含まれており、やはり貴重な研究資料である。
 このうち〈太子丁■〉の内底には2行6字「作太子丁尊彝」、〈未祖壬■〉の内底には2行3字「未祖壬」と鋳込まれている。扶風県博物館蔵。

 (4)の展示品は、2006年11月、扶風県城関鎮5郡西村で西周青銅器の窖蔵が発見されたときのもので、文物は27件である。
 「五年■生尊」は通高31センチで器内壁に14行、112字の銘文が鋳込まれている。 この銘文は2800年以上前の土地の紛糾に関して記載したもので、■生は、前後して
  「五年■生■」(米国エール大学博物館蔵)
  「六年■生■」(中国国家博物館蔵)
を鋳造し、この事件を記録した。 (詳細については、徐義華「新出土〈五年■生尊〉与■生器銘試析」『中国史研究』07−2参照)。同時出土の「胡仲渉鐘」甬部にも4行17字の銘文がある。宝鶏扶風県博物館蔵。

 (5)の展示品は、その他(1〜4以外)の地から発見されたもので、鳳翔県博物館や陳倉区博物館などに収蔵されている罍や鼎などを主に展示していた。

 今回の展示は10日間という、展覧会としては異例なほどの短さである。 この展覧会に合わせて刊行された図録『国宝‐宝鶏群衆保護文物紀実』(陝西人民美術出版社、07−6)や展示会場の出口付近に「文物法知識問答」と表示されたディスプレーが設置されていたことから考えれば、「農民によって保護された文化遺産の成果展」と銘打った理由がはっきりしてくる。

 昨今、中国では盗掘が横行し当局を悩ませているが、今回の展示はこうした現状を憂えてのものでもあろう。 祖先が遺した貴重な文化遺産を保護することは、中国人民の使命であり、これらの文物を発見した宝鶏の農民に対して報奨金を与えることによって、「新文物法」の精神を人民に広く浸透させる意図があったものと考えられる(拙稿「中国盗掘事情」『跡見学園女子大学人文学科フォーラム』第3号参照)。

(北京・禄米斎にて 07・6・28 横田恭三 記)


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