日本の「かな」、銅鐸にルーツ

掲載日: 15年08月01日 | カテゴリ: トップ記事

高野切に通じる感性
井茂氏が狄契皚
弥生時代から育んだ線


 今春には全書壇的な運動母体としての「日本書道ユネスコ登録推進協議会」も始動して、書道界を中心に「日本の書道文化‐中でも仮名書道を‐」のユネスコ無形文化遺産登録の実現に向け期待が膨らんでいる。
 
 そんな折も折、この構想の牋羝佑魴,辰真有瓩覇蔚┻腸颪良会長も務める井茂圭洞氏がこのほど、「日本の『かな』は単に漢字の草書をアレンジしたような借り物ではなく、日本人のアイデンティティーと感性が育んだ固有の文化であり、そのルーツは紀元前の弥生時代に作られた銅鐸の装飾図像にまで遡って確認できる」とする新説を提唱し、注目されている。
 
 以下、同氏にその所説を解説してもらった。(文責編集部)
 ◇ ◇ ◇

 昨秋、私は上野の東京国立博物館で開かれていた「日本国宝展」の会場で銅鐸を見て、ハッと気づいたことがあった。展示されていたのはいずれも国宝の、銅鐸としては珍しい図像装飾をもつことで名高い「伝香川県出土(江戸時代に当時の讃岐国で発見と伝わる)袈裟襷文(けさだすきもん)銅鐸」と、1964年に神戸市灘区桜ケ丘町で出土した同じく袈裟襷文の「桜ケ丘四号銅鐸」、「同五号銅鐸」の3点だが、海を隔てた遠い土地から出土しながら、まるで同一人物によるものか、同じ工房で作られたのではと思うほどよく似た図像の線に、特別なものを感じたのである。


 言うまでもなく銅鐸は、この日本列島で卑弥呼よりもずっと昔の先史時代に弥生時代の紀元前2世紀から同1世紀頃を中心に作られたと考えられている考古遺品で、全国でこれまでに500個以上が出土しており、つい先日も淡路島でまとまった個数が一度に見つかってニュースになったことは、記憶に新しい。


 しかし、そうしたおびただしい銅鐸遺品のなかでも、絵画的な図像をもつものは今のところ僅か七、八点に過ぎないとされており、誠に珍しい貴重な考古資料なのである。

 
 そして実は私は、20年ほど前にも、神戸市博物館で開催された「銅鐸の世界」展で同じ銅鐸を見ているのだが、その時には書的な感性で何か特別な印象をもったという記憶はない。だが今回、この3点の銅鐸(「伝香川」には前後面にそれぞれ6区ずつの計12区、「桜ケ丘」の2点には前後面に各四区ずつの合わせて16区に及ぶ小区画に、それぞれ図像が陽刻されている)の極めて似通った図像をつぶさに観察してみて、この実に洗練された曲線美の線にこそ、まさに日本の「かな」のルーツがあると見ていいのではないかと、確信したわけである。

 
 よく知られているように、甲骨文は凹の線だが、銅鐸は凸の線。しかし、凸の線も鋳型に彫られた段階では凹の線だったわけであるから、これらを見比べると、銅鐸の線には甲骨文にはない、豊潤で温かい日本人の感性が息づいていると感じるのは私だけだろうか。
 
 
 例えば、鶴の頭から尻尾までの優美な曲線は言うまでもないだろうが、亀の甲の円の曲線や、臼の胴のくびれの線も、実にしなやかな、美しい曲線である。そして杵や鶴の足はむろん直線的な線だが、その直線にしても、甲骨文の線とは全く違うものを感じる。そして線質自体も、「高野切」の線そのものと言っても、過言ではないだろう。

 
 造形的にも、空間のとり方が実に明るく、せせこましくなく、それはそのまま「かな」の空間に通じるものと言っていいと思う。
 高階秀爾先生が、「『平仮名』は『曲線文字』」と規定され、小松茂美先生は「かなの書体は11世紀の『高野切』をもって完成したと見てよい」と断じておられるが、これらの先生方のおっしゃっていることは即ち、「かな」は決して単に漢字の一部を利用したり、草書をさらに簡略化したりして便宜的に作り上げたというような借り物なのではない、ということではなかろうか。
 
 
 むろん、漢字の草書を参考にし基にしたことは事実だろうが、その線や形は、やはり日本人のアイデンティティーに根ざした、日本人の感性が育み、生み出した線感覚や造形感覚が根底にあり、そしてそのルーツは何と弥生時代の銅鐸にまで遡ることができるのではないか、そう思わずにいられないのである。
 
 
 もっとも、こうした見方や判断は全くのところ私の感覚的直感的なもので、科学的根拠など何もないものであるから、大方の賛同を得られるまでに何年かかるか、あるいは何十年かかっても認められないかもしれないけれども、私は今、少しの迷いもなくそう確信し始めている。(談)



(書道美術新聞 第1058号1面 2015年8月1日付)



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