「シル/わか」書道展への期待(久米公・書振連顧問)

掲載日: 09年04月15日 | カテゴリ: 書道美術新聞【1面】

“応答”ほほえましい組作品
“書の未来”に役割

 書振連(全日本書文化振興連盟・桑原呂翁会長)が、書道を生きがいとする高齢者の人たちの学びと発表の場として長年主催してきた「シルバー書道展」を第20回展を節目に模様替えし、「書文化のさらなる活性化と次世代への確実なる継承に資する」ためとして、改めて「書文化の“世代間交流の場”、“世代間継承の場”への発展」を標榜して再スタートさせた本展が、果たしてどう変わったのだろうと、先月、東京芸術劇場で開催された「第22回全国〈シルバーから/わかばまで〉書道展・東京展」に興味津々の思いで初めて足を運んだ。 
エントランスを入った風景の一部 まず、入り口の壁面に並んだ役員陣の個性的な玉作群を鑑賞の後、順次会場をめぐっての第一印象は、他展にない特異感で、それは成人と児童・生徒(中学生以下)との特徴的な作品が織り成す黒と白、生と熟、あるいは熱気と静寂等の縞模様であった。 


「おかえり」「無一物」 中でも、まず真っ先に目に飛び込んできたのは、意表をつく「おかえり」(小2・孫)という日常挨拶語の作品。 それは何と、祖母の作という禅語「無一物」との組作品であった。 用紙にいっぱいの元気な児童作品と洗練された祖母の草書作品が隣り合って、あたかも応答しているかのように見える。

 私はつい、「お土産がなくてごめんネ」とでも応えているかのような、ほほえましい情景を想像してしまった。 また、「無一物」の後に省かれているはずの「中無尽蔵」の語を補って眺めてみると、さらに違った情景が思い描かれそうな気もした。 


「力強い前進」「あるがままに」 その先には、「力強い前進」(中2男・孫)と「あるがままに」(祖父)の大字仮名が並んでいる。

 少年の若々しい意欲語に対して、欲も得もない悟りの語。 それでいて実にセンス豊かな造形の作で、互いに励まし合って練習を続けている様子がしのばれ、また中二男子・孫の「夢実現の春」とその祖父の「野鶴孤雲自在、春風酔客相宜」の半切二行書のペアは、共に高い練度を見せつつ素材の「春」に対する境地の違いを見せていて、それぞれに見入ってしまった。

 他にも、こうした同類の組作品が多かった。 


「寿山」「月」 さらに進むと、祖母の「寿山」と小学低・孫の「月」の篆書の組作品といったものもあり、このように祖父母と孫、父母と子供、兄弟・姉妹、夫婦、縁戚、知友相互かと推察される人たちの作品が、素材の上で互いの境地を示し合っているかのように隣り合っていて、その都度足を止めさせられてしまう。

 会場を見回すと、他の鑑賞者たちもやはり私と同様に、それらの作品の前で足を止め、ほほえみながら会話を交わしている。 そんな情景を見かけると、これこそ本展の目指す趣旨・役割と思えてくる。 昨年の本展図録と見比べても、こうした組作品が増えているのは興深い。 


 以上は、たまたま素材の語句の面から会場での気付きの一面を挙げたに過ぎないが、これが将来、たとえば次のようなことを切り口にして多彩に鑑賞できるような会場になったらどうだろう。 しかも、あらかじめ情報を相互によく交わし合っておいて、会場で作品同士が切り結び合うとしたら、本展の意義も興趣も倍加するに違いない。 

 ―饌梁佝罎量未ら
 ⊇馼の面から
 I集粛夕阿量未ら
 ね儷駘兀爐量未ら
 ノ琉茵κ野の面から
 ι集衆嫂泙量未ら
 臨書と創作の面から
 ┐修梁

 これらに、前述のような人間模様を絡ませつつ、

 遠近・老若・新旧・縁者・同窓・同志・男女・夫婦・恋人等の相聞詩歌類による交流
 漢語の詩文と読み下し仮名交じりの詞文による競作
 同一題材による競作
 時代別や特定の古典の臨書あるいは倣書による競い


 等々の観点から、個別にまたグループ別に、楽しく真剣に挑み合うこともできるだろう。 何はともあれ、本展には、今日の書道界に散見する感激の乏しい単なる技術一辺倒の競作展の流れに抗して、このへんで「おや?」と立ち止まって書の未来について、そして書展の在り方について、じっくりと考える機会をもたらす啓蒙の役割を期待したいものだ。
 以下、さらに付言しておきたい。 

 作品の規格様式は、とりあえず現行の土俵的制約の中で競い合うことでもよい。 
 ただし趣旨が生きるよう、展示方法にはさらに工夫がいるだろう。 
 作者の意図を汲み取りやすくする、簡潔な作品添付カードなどもほしい。 
 依帖小・中・高・青壮・熟年等の別が一目で分かる工夫もあっていい。 


 本展が、書に関心を寄せる遠近の老若男女に、まさに「文字・活字文化振興法」に適合する伝統文化行事として理解と愛好の輪と和を広げる場を提供し、各作品の前で親しみと励ましの声を交わし合い、「こんな書展こそ」と期待され、一層の盛り上がりを見せるよう願ってやまない。 



(書道美術新聞 第913号1面 2009年4月15日付)



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