(1)      (昭和51年6月7日第三種郵便物認可)美術新聞社報 平成29年(2017) 11月19日(日曜日)
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雄勝、猊活瓩愡脇
掲載日: 13年10月15日

重機による採掘
「硯作り」の原点、見失わず



 大震災から2年半。
 
 暫くぶりに訪ねた「硯の町」宮城・石巻市の雄勝では、壊滅的被害を受けた市街の中心部に最後まで無残な姿をさらしていた「雄勝硯伝統産業会館」の解体撤去作業も漸く終わって、本当に何もなくなった殺伐とした犢野瓩広がっていた。
 
 しかし、その街の一角で最後に取り壊し工事が始まった旧狡役場疝詐〜躪膸拿蠅遼気蕕坊つプレハブ長屋に仮の本拠を置く雄勝硯生産販売協同組合では、市が進める「町」の復興計画に合わせて硯事業再生の方途を探りつつ、修理で再利用が可能となった僅かな装置や工具類を駆使して、細々とながらも全国から寄せられる支援の注文に応えるため、硯や食器、工芸品類の製造が緒に着き始めていた。
 
 焦眉の急の組合の立て直しと硯事業の再建に奔走する組合理事長、澤村文雄・澤村製硯社長に、その現状や、今後の見通しなどを聞いた。(編集部)

(続き 雄勝硯組合・澤村文雄理事長にきく)

 ◇ ◇ ◇


  
 ――まず、雄勝の硯組合の現状について。
 
 
 澤村 組合(雄勝硯生産販売協同組合)では昨年度、被災して使用不能になった「雄勝硯伝統産業会館」に代わる仮設の倉庫と工房を建設できればと考えて、経産省に資金をお願いし、各種設備から重機類まで合わせて、約6千万円の交付を決定して頂きました。
 
 ところが市(石巻市)のほうで、建設予定地をさらに盛り土する計画なので少し待てということになり、結局全く手をつけられないままこの3月の年度末となり、経産省の資金は単年度事業対象ということもあって国に返さざるを得なくなりました。
 
 そこで、今年度に再申請しようとしましたら、前年度に交付された資金を全く使わずに返納したので、再申請しても交付は難しいと言われ、頭を抱えてしまいました。
 
 
 ――復興予算は使い勝手が悪く、使い残しが多いといわれるのは、そういうこともあるのですね。
 
 
 澤村 そうなのです。
 
 しかしその後、国会議員の方や、経産省の担当官の方などのご尽力で、何とか再交付が受けられそうな流れで話は再び進み始めましたが、今度は、昨年あたりから建設業者も手一杯で、しかも深刻な人手不足で、資金が交付されてもまたすぐには手がつかない可能性があるということで、八方ふさがりの状況です。
 
 もっとも資金については、中小企業庁の中小企業基盤機構のほうで見てもらえる見通しがついてきていますが、いろいろ複雑な絡みもあり、今年中の着工は難しそうな感じです。
 
 
 ――町の復興計画は。
 
 
 澤村 この旧庁舎(市総合支所)のある旧市街一帯、伊勢畑地区と下雄勝地区を盛り土して、商店街を再建しようという計画が動き出しています。
 
 私たちの伝統産業会館も、この一帯に再建する方向で、決まって来ています。
 
 ただ、盛り土を九辰砲垢觀弉茲世修Δ如■魁腺乾瓠璽肇襪任△譴丕院■殴月ほどで土も落ち着くそうですが、9メートルだと何年も掛かり、着工は2016年度からと、新聞には出ていました。
 
 でも、つい最近までは何にも進んでいなかったことからすれば、少しは光が見えてきたと感じています。
 
 
 ――硯業界の現状は。
 
 
 澤村 組合員で現在もこの旧町内に残っているのは、たった1人という現状です。
 
 私も隣の河北町から通って来ていますし、事務局長は1時間半くらいかけて仙台市郊外から通っていますが、組合員は皆それぞれに仕事を再開しています。
 
 現在、主に出荷しているのは、食器の皿です。
 
 震災の年に伊勢神宮から受けた注文の700枚は、何とか昨年の秋に納品出来ました。
 
 食器は震災前から取り組んできた製品で、当初は高級料亭やホテル関係などに限定して販路を開拓してきましたが、東京の食器メーカーなどの協力もあり、徐々に一般向けにも販路を確保することが出来ました。
 
 その結果、食器の注文に供給が追いつかないほどになり、組合加盟の各社も硯の不振を食器で補おうと、試行錯誤を重ねて本格的に製造や販売に乗り出そうとしていた矢先の大震災だったのです。
 
 
 ――雄勝石の採掘は。
 
 
 澤村 雄勝石は、海に溜まり積み重なった泥が石になった、いわゆる粘板岩で、玄昌石と呼ばれます。
 
 採掘している場所は、海が隆起してできた山です。
 
 2億3千万年前の地層を掘っているといわれ、二枚貝の化石などもよく出てきます。
 
 ボーリング調査の結果では、まだ無尽蔵といっていいほどあるそうです。
 
 しかし地震で道路が通行不能になり、採掘用の機械も破損し、一時は採掘が不可能になりました。
 
 でもお蔭さまで、何とか昨春からやっと重機も入れられるようになり、採掘を再開することができました。
 
 
 ――雄勝石は露天掘りで採るそうですね。
 
 
 澤村 そうです。
 
 まず石の脈のところまで土砂を取り除いてから、掘り進みます。
 
 しかし硯の場合ですと、採った石から硯に成形出来るのは、僅か5パーセントほどです。
 
 かつてはその残りの石は棄てていましたが、それではもったいないということで、工芸品などに加工するようになりました。
 
 雄勝石は、厚くすると割れやすく、また野外にそのまま放置すると風化しやすいのが難点ですが、硯に加工したり、復元された東京駅の屋根に使われて注目されたスレートのように、5ミリ厚まで薄くすると丈夫で風化にも耐えます。
 
 
 ――硯の製造技術者と技術の継承は。
 
 
 澤村 現在、旧総合支所の敷地内に建てられた組合の仮設事務所兼工房には、私の社の職人が3名詰めており、自社分と組合受注分を一緒に作業しているのが実情です。
 
 そのほかに最近来てくれた20代の若手も2名おり、本人たちもやる気十分なので、将来的には技術を継承してくれるものと楽しみにしています。
 
 しかし、硯職人の育成には長い時間が掛かります。
 
 学童硯の製造技術の習得だけでも、5〜6年は必要です。
 
 今はまだこの道50年といった職人が健在で、高度な浮き彫りを施した硯の加工なども時間さえあればできますが、職人の多くは70歳前後という高齢ですから、若手職人の育成と技術の伝承は待ったなしです。
 
 正直、少々焦りを感じ始めてもいます。
 
 
 ――雄勝は、学童硯の主産地としても有名でしたね。
 
 
 澤村 学童硯は、いわゆる「書道セット」用ですから、安くなければならず、天然石で手彫りというわけにはいきません。
 
 近年はセラミックの硯が主流ですが、雄勝はかつて「人造硯」を供給していました。
 
 これは、雄勝石を粉にしてセメントを少し混ぜ、油圧プレスで成形した後に天日干しして固めます。
 
 私の社だけでも、年間100万枚出荷していました。
 
 でも、少子化などで書道セットの需要も大きく減ることを予測し、撤退しました。
 
 
 ――それで、工芸品も手掛けるようになった。
 
 
 澤村 そう、組合の総会でも、いつまでも書道セット頼みでは取り残される、このまま硯だけを手掛けていては限界があるという危機意識が高まり、工芸品にも軸足を置き始めたわけです。
 
 しかし、雄勝には長い硯作りの伝統と、硯に適した石材も今なお十分にあるわけですから、これからも硯作りの原点を見失うことのないようにしよう、売上だけ、商売だけを考えていては、雄勝は全てを失ってしまう、という認識を共有しながら、仕事の幅を広げていこうとしているわけです。
 
 
 ――現在の悩みは。
 
 
 澤村 震災前の雄勝も「硯の町」として、県や市、旧雄勝町でもPRはしていたのですが、やはり限界がありました。
 
 その意味では、最近は全国に名前が知られるようになり、寄付などのご支援も、書道界をはじめ沢山寄せて頂いております。
 
 そうしたご支援の一環でもあるのでしょうか、時々千枚単位とか、何万枚といったお話を頂くことがあり、こうしたまとまったご注文に対応できないのが、悩みの一つです。
 
 雄勝では全て一枚一枚手作業で作りますから、現在の組合の能力では、皿はそれでも月に2、000枚は作れますが、硯は彫って磨いてという高度な技術を要する工程が必要ですから、例えば5×3寸といった最もポピュラーな硯でも1日に10面できるかどうか、月に200面がやっとといった状況なのです。
 
 しかし、徐々に体制を整え、生産能力も高めていきたいと思っています。
 
 なお、震災後、組合を会社組織にしてという構想も出たことがありましたが、今はこのままで結束してやっていこう、という方向で固まっています。
 
 
 ――ありがとうございました。



 組合への問い合わせ等は、TEL&FAX0225−57−2632へ。
 

雄勝硯生産販売協同組合
▽澤村製硯(澤村文雄)
▽雄勝天然スレート(木村満)
▽沖津製硯部(沖津俊一)
▽春日(春日常樹)
▽樋口昭和堂(樋口昭一)
▽やなせ留山堂(簗瀬隆夫)
▽山音商店(山下三和子)
▽杉山澄夫硯店(杉山澄夫)
▽開和堂硯店(山崎勝)




(書道美術新聞 第1016号1面 2013年10月15日付)


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