(1)      (昭和51年6月7日第三種郵便物認可)美術新聞社報 平成29年(2017) 11月20日(月曜日)
書道美術新聞【1面】
“読売スクープ”に波紋広がる
掲載日: 09年04月01日
書道美術新聞【1面】

「円珍勅書は“写し”」
湯山・奈良博館長が報告書
書道会は“道風筆説”主流

 読売新聞(東京版)が3月28日付夕刊の一面トップで「小野道風の直筆ではなかった」「後世の写し」とする記事を大きく扱い波紋を呼んでいる。

 記事は、湯山賢一・奈良国立博物館長(古文書学)が近く発表する報告書のなかで、東京国立博物館蔵の書蹟、国宝・小野道風筆「円珍贈法印大和尚位並智証大師諡号勅書」(「円珍勅書」)が道風の直筆ではなく後世の写しと結論づけるというものだが、書道界・学界では同「勅書」が原本ではなく写しで、必ずしも道風直筆とはみられないとする説などもつとに知られており、これほどのビッグ・ニュースになったことに首をかしげる向きも少なくない。

 湯山氏は、4月に刊行予定の「文化財と古文書学/筆跡論」(勉誠出版)の中で、古文書学の見地から、‘噂颪平安期の公文書にしては行書体であり過ぎること勅書後半の署名の上に記された官位の文字が極めて小さいこと1瀋祖悉颪料闇(延長4年)に出された別の文書の「天皇御璽」の内印と比べて「天」や「御」の字形が異なっており、押印が雑であることは損罎旅坿屬棒泙衞椶鯢佞韻胴げた跡があり、折り目は一行ずつまっすぐに書き写すために付けたとみられること、また末尾の署名が全て本文と同筆であることなどを挙げ、「当時の勅書・公文書の形式としてはありえない」と指摘。
 
 その上で、薄縹色の染紙が11世紀中頃まで朝廷の公文書として使われていた(その後は紺紙に変わっていく)ことから、「円珍勅書」は遅くとも11世紀中頃までに朝廷中枢部の中務省で作成された紙を用いた「写し」であり、道風の行書体の豊潤さを後世に伝えるために作成されたものと考えられるとする。
 
 
 この湯山氏の説からいけば、道風が本来の勅書を楷書で書いていた場合、後世の中務省に関わる人物が、中務省で公文書のために用いられた貴重な用紙を使って、楷書で書かれた道風筆の勅書をわざわざ“道風風”の行書に変えた「写し」を作成したということになる。
 
 湯山氏の説は「円珍勅書」が中務省に保管された勅書ではない、という可能性を裏付けるものとしては十分説得力があるものの、それで「道風の自筆ではなく、後世の人による写し」と結論づけられるかは疑問というのが、書道界の多くの関係者の受け止め方だ。
 
 また、書蹟・古筆の「写し」は古来重要視されてきた資料的価値の高い複製法の一つであり、真筆と同様に高く評価されてきたことも考えれば、それで「円珍勅書」自体の価値が決定的に下がるというものでもないとする見方も根強い。
 
 
 たとえば、春名好重・久曽神昇・中田勇次郎の共著『書聖小野道風』(平成3年・春日井市道風記念館刊)には既に、「天皇の御画日がないことは、この勅書が原本ではないことを示している。
 また、中務卿敦実親王・中務大輔源国渕・中務少輔源興平(中略)の名はすべて本文と同筆で、各自の自署でないことも、この勅書が原本ではないことを証明している。
 しかし、字面に方8.8センチの「天皇御璽」の朱印十三顆を押し、紙背の継ぎ目にも二顆押していることは、この勅書は別本で、偽文書ではないことを示している」などとあり、平成12年に東京国立博物館が開催した「日本国宝展」の図録でも、「巻末の御画日や敦実以下の自署のある原本は中務省に留め置かれたはずであるが、この現存する勅書は、末尾の署名が全て本文と同筆で、寺へ下賜された写し」などと解説している。
 
 
 今回の報道に対して同勅書を所蔵する東京国立博物館の島谷弘幸・学芸研究部長は、
 「湯山氏の意見は古文書学の立場から考えられた新しい説である。
 新聞報道によるいくつかの『道風筆でない』という根拠について、特に 銑までは、道風の自筆であることを覆すものではない。
 この『円珍勅書』は、元々寺に対し謚号したことを通知するために書かれており、正式に中務省に保管する勅書ではないということは従来から指摘されている。
 また、勅書を書くという緊張感のため、若干の筆意のなさも同様に指摘されてきたことである。
 個人的には道風の自筆であるという可能性があると考えているが、いずれにしても発表される論文を見てさらに精査したい」と話している。
 
 また笠嶋忠幸・出光美術館学芸課長代理は、「記事を見ると、『円珍勅書』は後世の写しで道風の直筆ではないとしているが、直筆であるか否かはこの際大した問題ではない。
 記事の表現が果たして適切なものかということもあるが、もしも直筆でなかったとしても、書蹟としての価値が下がるわけではないし、そもそも平安の古典・古筆と呼ばれるもののほとんどが伝称筆者である。
 要は、日本書道史上の位置付けとして必要ならば取り上げればよいし、そうでなければ淘汰すればよい。
 いずれにしても、今回の調査発表で他分野と書分野との接点がさらに広がることは、いいことだと思う」とし、高橋利郎・成田山書道美術館学芸員は、「書としての価値を考えたとき、『名筆』として歴代の美意識の中で評価されてきたものであり、史料としての価値はともかく、書蹟としての価値は変わらないし、それを何よりも最優先すべきだと考える」という。
 
 なお、湯山氏の指摘が正しく、「円珍勅書」が道風筆でないと証明された場合、「国宝」としての指定に影響するのかどうかに関心が高まっているが、文化庁は「学説の一つが発表されたという現段階で、文化財の価値判断に対するコメントはできない」としながらも、「『円珍勅書』は国宝(美術工芸品)の中でも現在は『古文書』部門での指定となっており、仮に道風の自筆でなかったとしても古文書としての価値が下がることはない」としている。



(書道美術新聞 第912号1面 2009年4月1日付)


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