(1)      (昭和51年6月7日第三種郵便物認可)美術新聞社報 平成29年(2017) 11月24日(金曜日)

2007-10-01
【連載】 書写・書道教育今とこれから[5] − 宮澤正明 (リレー論壇)
−本文より抜粋−
 「学習指導要領」の改訂が間近に迫り、学校関係者、とりわけわれわれ書写・書道教育関係者はいま、改訂内容への期待と不安が交錯して落ち着かない状況にあるといえよう。
 この9月25日に開催された、中央教育審議会の初等中等教育分科会・教育課程部会(第4期第11回)における資料『教育課程部会におけるこれまでの審議の概要(検討素案)』には「書写・書道」に関する内容が記されており、今後の書写・書道教育の方向性をうかがうことができ、重要な鍵が得られると思われる。

 そこで今回は、同資料の中の「書写」に関連づけられる内容を中心に紹介して今後の書写教育を展望すると同時に、その内容から課題となるポイントを抽出して、考えてみることにしたい...

【本文】

「指導要領」改訂に備えを  宮澤正明


 「学習指導要領」の改訂が間近に迫り、学校関係者、とりわけわれわれ書写・書道教育関係者はいま、改訂内容への期待と不安が交錯して落ち着かない状況にあるといえよう。
 この9月25日に開催された、中央教育審議会の初等中等教育分科会・教育課程部会(第4期第11回)における資料『教育課程部会におけるこれまでの審議の概要(検討素案)』には「書写・書道」に関する内容が記されており、今後の書写・書道教育の方向性をうかがうことができ、重要な鍵が得られると思われる。

 そこで今回は、同資料の中の「書写」に関連づけられる内容を中心に紹介して今後の書写教育を展望すると同時に、その内容から課題となるポイントを抽出して、考えてみることにしたい。

 なお、資料のタイトルに「(検討素案)」とあるようにこれらは最終決定の内容ではなく、あくまでも途中経過の検討中の案であり、今後変更される可能性があることをお含みおき頂きたい。

 さて、今次の改訂に当たっても、「書写」は小・中学校国語科に位置づけられてこれまで通り存続することは、いうまでもないことである。従ってわれわれはまず、これからの「国語」の基本方針をよく把握しておく必要があるといえよう。『教育課程部会におけるこれまでの審議の概要(検討素案)』には、次のように述べられている(傍線=筆者)。
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8.各教科・科目等の内容

(2)小学校、中学校及び高等学校 (1)国語

(1)改善の基本方針

○国語科については、その課題を踏まえ、小学校、中学校及び高等学校を通じて言語の教育としての立場を1層重視し、国語に対する関心を高め、国語を尊重する態度を育てるとともに、実生活で生きてはたらき、各教科等の学習の基本ともなる国語の能力を身につけること、我が国の言語文化を享受し継承・発展させる態度を育てることに重点を置いて内容の改善を図る。

 特に、言葉を通して的確に理解し、論理的に思考し表現する能力、互いの立場や考えを尊重して言葉で伝え合う能力を育成することや、我が国の言語文化に触れて感性や情緒を育むことを重視する。そのため、現行の「話すこと・聞くこと」「書くこと」及び「読むこと」から成る領域構成は維持しつつ、基礎的・基本的な知識・技能を活用して課題を探求することのできる国語の能力を身につけることに資するよう、実生活のさまざまな場面における言語活動を具体的に内容に示す。また、現行の〔言語事項〕の内容のうち各領域の内容に関連の深いものについては、実際の言語活動において1層有機的にはたらくよう、それぞれの領域の内容に位置づけるとともに、必要に応じてまとめて取り上げるようにする。

 また、〔言語文化と国語の特質に関する事項〕を設け、我が国の言語文化に親しむ態度を育てたり、国語の役割や特質についての理解を深めたり、豊かな言語感覚を養ったりするための内容を示す。

○子どもたちの発達の段階を踏まえた学習の系統性を重視し、学校段階・学年段階ごとに、具体的に身に付けるべき能力の育成を目指し、重点的な指導が行われるようにする。その際、小学校においては日常生活に必要な国語の能力の基礎を、中学校においては社会生活に必要な国語の能力の基礎を、高等学校においては社会人として必要な国語の能力の基礎をそれぞれ確実に育成するようにする。

○(前略)漢字の指導については、実生活や他教科の学習における使用や、言語活動の充実に資するため、確実な習得が図れるよう、指導を充実する。書写の指導については、実生活や学習場面に役立つよう、内容や指導の在り方の改善を図る。(後略)
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 このように国語科は、「実生活で生きてはたらき、各教科等の学習の基本ともなる国語の能力を身につけること」を重視するとし、国語科の学習が実生活でも他の教科においてもいかに重要であるかが、具体的に示されている。あらゆる教科において「国語力」を育成するという基本方針の下に、その中核となる国語科の果たす役割が期待されていることがうかがえよう。

 また「我が国の言語文化を享受し継承・発展させる態度を育てること」として、言語文化の継承・発展が盛り込まれている。このことに関しては、青山浩之氏が「毛筆を含めた書写活動が伝統や文化に裏打ちされた我が国特有の言語文化として重視されることにもなり、これまでの『書写』の枠組みが広がると捉えれば、大きな意義があるといえるであろう」(「リレー論壇」書写・書道教育の今とこれから(4)=本紙第876号)としていることに同感である。

 ただし、ここでいう言語文化が「読書」活動の強化、すなわち活字文化に偏したり、今日日常的に用いられる筆記具による書写活動のみに対応したりするものであれば、同じく青山氏が「言語文化を狭義に捉えた場合には、『書写』の『学力』もきわめて限定的な範囲で考えなければならないこととなり、むしろマイナスという見方もできるかもしれない」と指摘するように、楽観視することはできない。書写・書道教育に携わるものは等しく、言語文化としての「手書き文字」や「書写」の背景に、言葉を文字として記す行為が自己表出の場として、また、他者・社会を意識して伝え合ってきた長い歴史が存在することを、強く認識する必要があろう。

 「論理的に思考し表現する能力」に関しては、書写の学習は技能向上にその主眼がおかれるが、これからはその学習過程においては、言葉を通して思考する場を意図的・計画的に仕組むことが要求されよう。特に、「書写」の基礎・基本となる筆使いの技能や字形の原理・原則などの知識を育むために、これまではいわゆる「習得型」の方法が多く行われてきた。しかし、自己の課題と向き合って自ら思考して課題解決を図るための方法、いわゆる「探求型」の方法と並行して行うことが求められそうである。

 また、「互いの立場や考えを尊重して言葉で伝え合う能力を育成すること」とあるが、この文中の「言葉」を「文字」に置き換えてみれば、「書写」の学習内容の1つとして捉えることが可能となる。すなわち、自分本位に文字を書くことが相手にどう受け止められるか、自分の文字を他者との関係に結びつけて考える能力ということになる。このような捉え方は、これまでの「書写」の学習にはあまりなかったように思う。「書写」の学習、その活動を、伝え合う力としてはたらくことに関連づけていくことが求められよう。

 「現行の〔言語事項〕の内容のうち各領域の内容に関連の深いものについては、実際の言語活動において一層有機的にはたらくよう、それぞれの領域の内容に位置づけるとともに、必要に応じてまとめて取り上げるようにする」ことに関しては、「書写」が現行の〔言語事項〕に位置づけられていることから、重要な記述といえる。

 「書写」は三領域の1つである「書くこと」に直結するだけでなく、さまざまな学習活動の記録、記述などに関わる言語活動として捉えられる。ところが、これまでの〔言語事項〕に位置づけられた学習内容はややもすると取り立て指導として別途扱われることが多く、国語の三領域の学習に直接機能しにくい実情があったという反省があるようだ。〔言語事項〕の内容は、三領域の内容に有機的に溶け込む形に位置づけられて初めて生きてくるということである。「書写」も、日頃の学習成果がノートの取り方や日常生活の書写活動になかなか反映しにくいことが指摘されてきた。書写学習の日常化の問題である。「書写」の学習を、教材と同じように書けたことで目的が達成できたとするのではなく、学校生活や日常における書写活動に生きてはたらいてこそ「書写」の学習目的の達成とすべきであり、従ってこの点は、「書写」の日常化を図るための1つの道筋が開けたとみるべきであろう。

 ただし、〔言語事項〕をそれぞれの領域に位置づけた場合、〔言語事項〕の内容がどこに潜んでいるのかを、その都度明確にする必要があるだろう。特に児童・生徒にとっては文字を書く活動は学校生活全般にわたっており、「書写」の学習領域が見えなくなってしまっては「書写」の意義や意識を見失うことにもなりかねない。各領域の学習内容や活動で、「書写」の内容が深く関与し有機的にはたらく箇所がどこにあるのかを、きちんと策定しておくことが大切であり、さらには様々な領域に積極的に働きかける姿勢も見せることが、「書写」の意義を明確化することにつながるであろう。その際、「書写」の既習事項とどのように結びつけるのか、加えて「書写」の評価にどのように反映させるのかをも、視野に入れておく必要がある。また、「必要に応じてまとめて取り上げるようにする」とあることから、各領域に関連づけた「書写」の内容を、通常の学習内容とは別にどのように取り上げるのかということまでも、十分検討しておきたい。

 「書写の指導については、実生活や学習場面に役立つよう、内容や指導の在り方の改善を図る」と、「書写」に関する具体的な改善点が示された。これは、教科等の学習によって育まれた知識・技能、各種の学力を、実生活やさまざまな学習場面で自在に活用することができる力こそが「生きる力」であり「人間力」につながるという、基本的な考え方に基づいた内容と捉えることができる。「国語力」の1つである「書写力」も、社会生活を営む上での言語活動に資する力であり、言語感覚を豊かにする力なのである。そのためにも、「書写」の基礎・基本の学習の徹底は避けることができないことを、改めて確認をしておきたい。というのは、書写の日常化を図るためには、これまで以上に基礎・基本の徹底が必要であり、これを怠れば、正しい点画や字形の整いが多少崩れても、可読性があり体裁が整えばよしとするような方向へと流れやすいだろうと懸念するからである。

 社会生活では様々な筆記具を用いて文字を書く場面に遭遇するが、基礎・基本としての点画の送筆・終筆の筆使いは、抑揚や上下動を感得できる毛筆や軟筆などの筆記具で学ぶことが望ましいであろう。漢字・仮名が毛筆で書き継がれて今日の文字を形成してきたことを考えれば、「書写」の基礎・基本の学習は毛筆によるべきことは、今後も変わることがないと思われる。それは、「言語文化を享受し継承・発展させる態度を育み」「我が国の言語文化に触れて感性や情緒を育むことを重視する」ことにも、間接的につながることでもあろう。

 その一方で、字形を整えるための知識や技能を習得するには、それにふさわしい用具・用材の工夫を図る必要がある。指導方法も児童・生徒の発達段階に応じて、「書写」への興味・関心が高まり学習意欲が向上するように改善していくことが求められよう。このような多様な学習指導方法の改善努力の積み重ねこそが、「書写」の日常化へとつながるのではあるまいか。

 以上の改善点を踏まえ、小・中学校の改善点が以下のように述べられている。
==================================================
(2)・改善の具体的事項

(小学校)

○日常生活に必要な基礎的な国語の能力を身に付けることができるよう、次のような改善を図る。

(ア)「話すこと・聞くこと」、「書くこと」及び「読むこと」の各領域では、日常生活に必要とされる対話、記録、報告、要約、説明、感想などの言語活動を行う能力を確実に身に付けることができるよう、継続的に指導することとし、課題に応じて必要な文章や資料等を取り上げ、基礎的・基本的な知識・技能を活用し、相互に思考を深めたりまとめたりしながら解決していく能力の育成を重視する。

(中略)〔言語文化と国語の特質に関する事項〕では、
(中略)発音・発声、文字、表記、語彙、文及び文章の構成、言葉遣い、書写などについては、実際の言語活動において有機的には
たらくよう、関連する領域の内容に位置づけるとともに、必要に応じてまとめて取り上げるようにする。

(オ)書写の指導については、手紙を書いたり記録をとったりするなどの実際の日常生活や学習活動に役立つよう、内容や指導の在り方の改善を図る。

(中学校)

○小学校までに培われた国語の能力を更に伸ばし、社会生活に必要な国語の能力の基礎を身に付けることができるよう、次のような改善を図る。

(ア)「話すこと・聞くこと」、「書くこと」及び「読むこと」の各領域では、小学校で身に付けた技能に加え、社会生活に必要とされる発表、討論、解説、論述、鑑賞などの言語活動を行う能力を確実に身に付けることができるよう、継続的に指導することとし、小学校で習得した能力の定着を図りながら、中学校段階にふさわしい文章や資料等を取り上げ、自ら課題を設定し、基礎的・基本的な知識・技能を活用し、他者と相互に思考を深めたりしながら解決していく能力の育成を重視する。

(中略)〔言語文化と国語の特質に関する事項〕では、
(中略)音声、文字、語彙、単語、文及び文章の構成、言葉遣い、書写などについては、実際の言語活動において有機的にはたらくよう、関連する領域の内容に位置づけるとともに、必要に応じてまとめてとりあげるようにする。

(エ)書写の指導については、社会生活に役立つことを引き続き重視するとともに、文字文化に親しむようにするため、内容や指導の在り方の改善を図る。
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 この中学校の改善点で特筆すべきことは、「文字文化に親しむ」の文言が入っていることである。書写の指導に関する項で「文字文化」が用いられているということは、文字の歴史的背景、生活に溶け込んでいる手書き文字の諸相、そして文字を審美の対象とするところの「書」もそのカテゴリーに入るとすれば、これまでの〔言語事項〕で扱われた内容とは多少様子が異なるといえよう。

 「言語文化を享受し継承・発展させる態度を育成」「他の言語と比べた国語の特質」といった改善を受けての具体的改善点だけに、幅広い「文字文化」と受け止めることができよう。だとすれば、その1部分は高校芸術科「書道」との関連も生じることになろうか。これまで、中学校国語科「書写」と高校芸術科「書道」との間に爐里蠅靴蹲瓩良分が不足し、このことが高校の書道教育の課題とされてきた。幅広くしっかりとした爐里蠅靴蹲瓩確保されることを、期待したい。

 今回示された『教育課程部会におけるこれまでの審議の概要(検討素案)』は、あくまでも素案ではあるが、今日の教育観、学力観に沿ったその内容から今後の「書写」の方向性や喫緊の課題は十分垣間見ることができよう。とりわけ、「書写」の日常化の強化・改善に焦点が絞られていることが確認できたことは大きな意義があろう。「書写」の日常化は決して容易なことではないと思われるが、そこまで迫って来ている「学習指導要領」の改訂に備え、今やっておくべきこと、検討しておくべき事柄を的確に見極め、万端の準備を怠らないようにしたいものである。


●筆者紹介…みやざわ・まさあき、全国大学書写書道教育学会理事長、山梨大学教授
[画像:宮澤氏]
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