新“指導要領”『解説書』発表

掲載日: 08年08月01日 | カテゴリ: 書道美術新聞【1面】

新“指導要領”『解説書』発表
文科省“改革”の方向明示

 文部科学省はこのほど、今年3月に告示した新しい小・中学校用「学習指導要領」の『解説書』を発表した。この「平成20年版・学習指導要領」がいわゆる「ゆとり教育」の見直しや、「言語活動の充実」、「伝統と文化の重視」などの新理念のもとに、国語などの主要教科の授業時数も大幅に増やす方針を打ち出したことなどで、書写・書道にとっても狡匹ど疆な教育改革が現実のものとなる期待が高まっているが、今回の『解説書』の発表でさらに具体的に改革・改善の内容や方向性が明示されたことから、関係方面にとっては待ったなしの対応が迫られることとなった。
 そこでこの『解説書』の発表を受けて、改めて今次の「学習指導要領」改訂の狙いやポイント、また書写・書道教育界や書塾界がしっかり認識しておきたい要点などを、全国大学書写書道教育学会理事長・宮澤正明氏に聞いた。(か)
(本紙4、5面に『解説書』抄録掲載)


『解説書』を読んで/宮澤正明氏に聞く
指導内容に系統性、具体性

 ―― いよいよ文科省から『解説書』も発表されて、小・中学校用の新「学習指導要領」の全貌が細部まで明らかになったわけですが、具体的にどういったところがポイントになりますか。

 宮澤 小学校ではまず、児童の発達段階に即して文字から文、文章へといった展開に配慮するなど、学習指導内容に系統性がある点や、基礎・基本から日常化へといった具体性が感じられる点を、ポイントとして挙げておきたい。

 ―― 「文字の組み立て方」に関して、従来の「〜に注意して」といった態度的内容から、「〜を理解して」へと、表現が変更されていますね。

 宮澤 そうです。これなども「文字の組み立て方」を、はっきりと知識として習得させる内容にしようとしているのだといえます。指導方法や評価の面にも、工夫が求められることになるでしょう。

 ―― 「点画の種類」とか、「筆圧などに注意して」などの記述も見られます。

 宮澤 これらは、従来の学習指導要領にはなかった内容です。まず「点画の種類」については、漢字指導との関連が図られることが期待されます。また、「筆圧などに注意して」は、今回の改訂の最も注目すべき点の一つといえると思います。


毛筆の性能や機能に言及

 ―― これまでの指導要領では、毛筆の性能や機能について具体的には何も示されていませんでしたね。

 宮澤 そうなのです。それが今回、「筆圧」が示されたことで、毛筆の機能を考えさせたり、さまざまな線を試させたりして、毛筆と親しむ機会が増えることが期待されます。このように、書写学習における毛筆の意義や役割を明確にしようとする意図が見られることは、大いに歓迎すべき点です。とはいいましても、教員の側に毛筆に関する経験や知識が不足すると、絵に描いた餅になりかねません。まずは先生方に、講習会や研修会などを通して、できるだけ毛筆に親しんで頂くことが求められそうです。

 ―― 毛筆による学習に関しては、他にもいろいろ具体的に示されているようです。

 宮澤 「用紙全体との関係に注意して」とか、「書く速さを意識して書く」、「目的に応じて」、「筆記具を選びその特徴を生かして」などと示されましたが、こうして日常化を強く意識し、どこに留意して日常化を進めていくのかが具体的に示されたことで、指導の工夫が大変しやすくなったと思います。特に、「書く速さを意識して」は、今回の改訂の目玉といっても過言ではないでしょう。

 ―― 書く目的をはっきり意識させようとしている。

 宮澤 そういうことです。小学校段階では、誰に宛てたものか、何に書くかによって書く速度を意識させるだけですが、これは「中学校書写」での「速書きとしての行書」に直接的に関連していくもので、いわば小・中学校書写の「のりしろ」部分が拡大したこととして歓迎したい。ただその際、楷書の速書きで自然に生じる「いわゆる許容される書き方」についての扱いをどうするかが、課題として浮上することは避けられないと思います。ですからこの点は、漢字指導や評価との兼ね合いを、教員間、学校内、各校種間で十分議論して、整合性や統一性を保つことが必要になってくると思われます。私は個人的には、速書きで自然に生じた終筆の「とめ・はね・払い」などの変化や、長短・接し方などに関しては、字形の問題であって、漢字の正誤(字体)としては問えない部分が多いと考えています。


「穂先の動きや点画意識して」

 ―― 「穂先の動きと点画のつながりを意識して書く」という記述も見られます。

 宮澤 この点は、毛筆に習熟していない先生方にとっては、かなり難しい内容かと思われます。しかしとても重要な要素で、このことは行書学習や、書道でいう「筆脈・気脈」にも通じ、また文字や文、文章をひとまとまり(文字群)に書くリズムに乗ることでもあり、レベルの高い技能ということになるでしょう。そのためには、文字の持つ固有のリズムや、文を書き連ねていくリズムなどに、習熟しなければなりません。ですからその手立てとして、毛筆であれば、一字を一筆で書き切る習慣や、文字の長短・方向・組み立ての焦点化など、文字形成過程のリズムを、知識として習得する必要があり、文、文章、言葉をまとまりとして書く訓練が必要になるでしょう。このことでは、国語の三領域の「書く」学習活動との連携が望まれます。

 ―― 中学校については。

 宮澤 中学の第二学年で、「目的や必要に応じて、楷書または行書を選んで書くこと」とあります。これは読み手を意識したものであり、書写力がコミュニケーション能力として捉えられていることの証でもあるでしょう。また第三学年では、「身の回りの多様な文字に関心をもち、効果的に文字を書くこと」と示されました。これなどは、多様な文字環境の中で、手書き文字の意義や、文字文化への認識を芽生えさせることを狙っているものといっていいようです。


中・高にも、のりしろ

 ―― 『解説書』では、「多様な文字の在り方に関心をもたせることで、文字の芸術性に関心を向ける素地を養い、高等学校芸術科書道への発展性も見通している」と明記していますね。

 宮澤 そうなのです。このことは、「中学校書写」と「高校書道」との間に「のりしろ」部分が確実に設けられたことを意味しているといえるわけで、歓迎したいと思います。ただ、どのような書き文字文化を取り上げ、それをどのように扱うかは難しい問題だろうと思います。ぜひよく工夫して、取り組んでいって欲しいところです。

 ―― 中学校書写の授業時数については。

 宮澤 第一学年と第二学年に、各20単位時間が確保されました。これがどのように運用実施されるか、注目されるところです。教育課程、年間指導計画に確実に組み入れ、一、二学年で系統的に「書写指導」が実施されることを、ぜひ期待したいと思います。

(文責―編集部)



(書道美術新聞 (第897号) 2008年8月1日版 1面)



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