【リレー論壇[3]】“新指導要領”期待と課題

掲載日: 17年02月15日 | カテゴリ: トップ記事

「改定案」を読んで(加藤祐司)


 文部科学省は2月14日、小・中学校用の「学習指導要領」の改訂案を公表した。この改訂案について、3月15日まで広く意見を募り、本年度中(3月末まで)に告示の予定という。

 この新しい学習指導要領の実施は、小学校が2020年度から、中学校が21年度からで、高等学校は来年度中に告示し、22年度から学年進行で実施の予定となっている。

 本稿では、この改訂案から読み取れる基本的な考え方を中心に、これからの小・中学校の国語科「書写」の方向性について、高校の芸術科「書道」との関連をも合わせて考えながら、感想を述べてみたい。(本紙2、3,8,9,10面に関連記事)
 ◇ ◇ ◇加藤氏

文字文化と学びの連続性

 まず、全体を通して読むと、「書写」との関連で新たに、
 「我が国の言語文化に関する事項を身に付けることができるよう指導する」
ことが、前面に押し出されているのが分かる。
 具体的には、‐学校1・2年生での「点画の書き方」や「点画相互の接し方」及び「運筆」への言及、中学校3年生での「多様な表現」、「文字文化の豊かさに触れ」などという、新たに加えられた指導事項が特筆される。
 これらは、「文字文化」(「書写」を含む)の観点から、,肋学校における低学年と中学年の接続が図られているもので、△話羈惺珊餮豌福崕饉漫廚塙盥桟歃儔福崕馥察廚隆屬寮楝魁△い錣罎襦屬里蠅靴蹇徂分が大幅に強化され、改善が図られていると見ることができる。
 参考に掲げた左図のAは、昭和43年から実施された学習指導要領で小学校3学年から「毛筆書写」が必修化されて以降今日まで、高校の芸術科「書道」との接続(のりしろ)は、重なり合う部分に位置するのが「書写」であったという関係を示したものである。

 これに対して、今回の改訂案では図Bのように、国語科「書写」と芸術科「書道」の関係が「文字文化」(「書写」を含む)をコア(核)として、同心円的な輪の広がりの形で継続・発展するプロセスが構想されているわけである。換言すれば、両者は同根・同幹として牾悗咾力続性瓩成立することになったもので、この意義は極めて大きいと言わねばならない。われわれの長年の願いが一歩前進したと言っても、過言ではないであろう。

小学校「書写」について

 以下、紙面の制約もあるので、重要な事柄を焦点化して述べることとする。

●小学校1・2学年
(3)我が国の言語文化に関する次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ウ・書写に関する次の事項を理解し使うこと。
(イ)点画の書き方や文字の形に注意しながら、筆順に従って丁寧に書くこと。
(傍線筆者)

 改訂案では、全ての学年において「ウ」の文言が新たに記されている。では、現行の学習指導要領では見られなかった「理解し使う」という文言には、どの程度の重みがあるのであろうか。
 学習指導要領の各事項には、それぞれの項目の示す能力などの段階が、文末表現によってある程度読み取れるようになっている。例えば、この「理解」、つまり知識的事項に関する事柄を、段階の低いものから高いものへと順に示すと、「…に気付く」、「…に注意する」、「…がわかる」、「…を理解する」となる。従って「理解し使う」という記述は、「書写」に対する質の高まりとその成果が、強く期待されていることが読みとれるのである。

 次に、(イ)の「点画の書き方」と「筆順」について考えてみよう。
 文字は点や線で構成されており、合わせて点画(てんかく)という。この点画によって、文字として紙上に書き表していくときの形成順序が、「筆順」である。点画のトメ・ハネ・払いと筆順の関係は、点画の実筆部のみでなく、空筆部(筆記具が紙面に接していない部分)も含め、文字を書く際の動きを含んでいる。ここで「内容の取扱い」に、
「第一学年及び第二学年の(3)のウの(イ)の指導については、適切に運筆する能力の向上につながるよう指導を工夫すること」
 が新設されたが、この記述について「運筆」と合わせて考えてみると、弾力性のある学習具(水筆や毛筆など)に親しむことで、点画の書き方(書の一回性)を意識することにつながり、文字文化の一端を体験することにもなることだろう。

 ただ、今回の改訂案で今後、「毛筆」とか「水筆」とかをどの範囲で指導することになってくるのかは、後日、文科省から出されるいわゆる『解説書』を見なければ、軽々に判断はできない。

●小学校3・4学年
(ウ)毛筆を使用して点画の書き方への理解を深め、筆圧などに注意して書くこと。(傍線筆者)

 これは、低学年の「(イ)点画の書き方…」を受けたもので、「毛筆を使用して」がより強調された。硬筆は毛筆とちがって特に字形だけが目立つものなので、指導内容もつい、字形だけに終始する危険性がある。
 そのため、根本的な運筆の原理から生ずる字形の姿に気づかず、視覚に訴える面からのみの字形指導に陥りやすい。毛筆での点画の指導を一層強化していることに留意したい。

●中学校3学年
(ア)身の回りの多様な表現を通して文字文化の豊かさに触れ、効果的に文字を書くこと。(傍線筆者)

 現行(平成20年版)の学習指導要領によって、高校芸術科「書道」と中学校国語科「書写」との間にも「身の回りの多様な文字」などによって若干の「のりしろ」部分は設けられていたが、今回の改訂案では「多様な表現」となり、これまで以上の大きな、そして強固な「のりしろ・接続」が図られることが読み取れる。その具体的な事項としては、高校芸術科の「書道」の学習につながる書体(篆書・隷書・草書)やその変遷、伝統的な仮名や変体仮名、様々な書式や形式、書家と書風の関係、等々があげられよう。
 また、「文字文化の豊かさに触れ」とは、実用性、芸術性、精神性など書の基本的性格に触れ、親しみ、多様な表現がいかに継承され今日に至っているかについて考え、自身がその社会・文化を構成する一員であることの自覚を促すなど、高校の芸術科「書道」との接続の視点から特筆すべき方向性と考えられる。

学年別漢字配当表について

 「学年別漢字配当表」については、現行の1、006文字から、改訂案では新たに都道府県名の「埼・茨・阪…」など20文字が追加され2、026字が示されている。
 
 この内容の取扱い等については、「当該学年より後の学年に配当されている漢字及びそれ以外の漢字については、振り仮名を付けるなど、児童の学習負担に配慮しつつ提示することができる」などとなっており、この点は現行と変わりはない。しかし、字種によっては、次のような学習上の問題があることも指導者は心得ておく必要がある。

▽花(1年)・化(3年)
▽空(1年)・穴(6年)
▽村(1年)・寸(6年)
▽活話(2年)・舌(6年)▽記(2年)・己(6年)
▽週(2年)・周(4年)
▽紙(2年)・氏(4年)
▽何(2年)・可(5年)

 漢字の学習過程においては、一般的には単独文字の後に複合文字を取り扱うが、上記の字種を見ると、「空・村」を1年生で学習した後に、6年生になってから「穴・寸」の単独文字を学習するといった具合に、学習の順序が逆になっている。

 この他にも「室(2)・至(6)」「悲(3)・非(5)」「望(4)・亡(6)」など、2学年以上離れて学習する字種が多くある。漢字の成り立ちや仮名の成り立ち等の指導に当たっても、手書きされた文字そのものと、手書きすること自体が「文化」であるという視点からその字種について検討するなどして、理解を一層深めておくことが大切である。

   ◇

 教育は、「不易と流行」の両面を統一する営みである。教師は書写・書道教育において、時代を超えて変わらない価値あるもの(不易)と合わせて、変わりゆく社会や変わりゆく情報機器の実情(流行)に無力・無関心であってはならない。

 これからは、こうした社会のつながりを意識し、「文字文化」を核として、書写・書道では「何を教えるのか」という知識の質・量の改善に加え、「どのように学ぶか」という学びの質や深まり、そして学びの成果として「どのような力が身に付いたか」という視点が、今まで以上に求められていくといえるであろう。 (東京学芸大学名誉教授・全日本書写書道教育研究会副会長)



(書道美術新聞 第1093号1面 2017年2月15日付)



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