【リレー論壇[1]】“新指導要領”期待と課題

掲載日: 17年01月15日 | カテゴリ: トップ記事

小学校低学年生への水筆指導の試み 文科省の中央教育審議会(中教審)が昨年12月21日、学習指導要領の次期改訂に向けた文科相の諮問に対する、同審議会の教育課程部会による最終答申を提出したことは、前号でお知らせした通りである。
 
 文科省ではこれを受けて、今回の改定では教育課程審議会を設置することなく、小・中学校用についてはこの3月中にも、高校用も今年中には、新指導要領を告示する方針を明らかにしている。
 
 そして本紙では既に種々お知らせして来た通り、今回の改訂は「書写・書道」に全く新しい時代を拓く画期的なものとなることが期待されており、書道界も書写・書道教育界も緊張感と的確な理解をもって告示を待つことが求められていると思うので、本号から専門家各氏にリレー方式で登場願い、新指導要領への期待と課題について、それぞれの立場から論じ、解説を願うこととした。(本紙2・4面に関連記事)
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「文字文化」、大きな課題(宮沢正明)
宮沢氏
 間近に迫った学習指導要領の次期改訂について、このほど発表された中央教育審議会の答申の内容から、特に「書写」に関する記述をたどって、個人的思いも込めて感想を述べてみたい。

小・中・高を通じて

 『国語ワーキンググループにおける審議の取りまとめ』の「伝統文化に関する学習の改善」に、
 「我が国の言語文化に親しみ愛情を持って享受し、その担い手として言語文化を継承・発展させる態度を小・中・高等学校を通じて育成するため、伝統文化に関する学習を重視することが必要である」

 「このため、伝統文化に関する学習については、小・中・高等学校を通じて、古典に親しんだり、楽しんだり、古典の表現を味わったりする観点、古典についての理解を深める観点、古典を自分の生活や生き方に生かす観点、文字文化(書写を含む)についての理解を深める観点から整理を行い、改善を図ることが求められる」、と書かれている。
 ここで注目すべきは、「文字文化」(書写を含む)についての理解を、小・中・高校を通じて深められるよう改善を求めている、という点であろう。

 つまり、小・中学校国語科書写に、文字を書く技能のみならず、「文字文化」の一翼を担う内容であることを踏まえた上で、文字の成り立ちや歴史的背景、社会における文字の役割や意義などといった、文字文化的視点からのアプローチを新たに加えるよう求めているのだが、それだけでなく、さらに高校でも継続して「文字文化」(書写を含む)の理解を深めることを求めているのである。

「文字文化」を担う

 従って、これまで小・中学校国語科書写ではほとんど触れることがなかった伝統文化としての「文字文化」(書写を含む)をどのように扱うのか。そして、小・中学校との連携から高校の国語でどのように位置づけるのかが、大きなポイントとなってくる。

 これを受けて、『次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ』(平成28年8月26日/中央教育審議会初等中等教育分科会・教育課程部会による)では、「課題を踏まえた国語科の目標の在り方」として、次のように示されている。
 「小・中学校においては、文字の由来や文字文化に対する理解を深めることについて、高等学校においては、実社会・実生活に生かすことや多様な文字文化に対する理解を深めることについて、高等学校芸術科(書道)との円滑な接続をはかる必要がある」

 このことから、小・中学校の国語科書写での「文字文化」、および高校国語での「文字文化」(書写を含む)は、高校芸術科書道の内容をも見据えた学習内容が求められることになろう。既に現行(平成20年版)の学習指導要領によって、高校芸術科書道と中学校国語科書写との間にも若干の「のりしろ」部分は設けられているとは言え、今回の改訂では、それ以上の接続が企図されており、しかも高校の国語にも接続するように要求しているのである。

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 これは、新たな「のりしろ」ができたと言うより、大げさに例えれば、2つの大陸がつながろうとしているとさえ、言えるのではなかろうか。つまり、これまでの小・中学校における書写や、高校の国語ではほとんど扱ってこなかった内容を新たに加えることによって、我が国の伝統文化としての「文字文化」に親しみ、享受し、継続・発展させる態度へと結び付ける考えなのである。

 具体的な学習内容としては、高校芸術科の「書道」で扱う書体(篆書、隷書、草書)や、その変遷、伝統的な仮名や変体仮名、様々な書式や形式、書家と書風の関係、用具・用材の製造法等々が、まず挙げられるだろう。そして、高校の国語での「実社会・実生活に生かす」とは、まさに狃饉未留篆瓩搬えられる内容で、小・中学校で学んだ内容の集大成を高校の国語で行うことを求めているとも言え、今回の改訂における、最大のポイントの1つとも言うことができる。

新しい「書写」の課題

 『次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ』(前出)には記述がないが、『国語ワーキンググループにおける審議の取りまとめ』には、書写の具体的内容について、次のような記述がある。
 「書写については、手本を模倣するだけの学習のみではなく、小学校段階では、平仮名、片仮名、漢字の由来や点画(はね、払い等)、字形などの特質を理解して書くことなど、高等学校段階の国語科及び芸術科(書道)の学習につながる、用具・用材を含めた文字文化についての理解を深める指導を充実することが求められる」

 これは、昭和43年に小学校3学年から毛筆書写が必修化されて以降、長年指摘されてきた手本の模倣学習(習字的学習)への反省を意味するものと捉えられ、書写の目的に合致した学習指導方法とは何かが、問われていると言えよう。
 思考を伴わない単なる模倣ではなく、点画の正確な書き方、字形の整え方などを理解して書くことができ、文・文章を読みやすく書くことができる書写力の向上を目指すのである。また、書写を通して文字の文化的側面への理解や、用具・用材への興味・関心を高めることも期待されている。こうした書写の知識・理解、技能の学習は、高校書道の基礎的内容であることにも着目しておきたい。

学習具の工夫も必要

 ここで、点画の特質についての記述は、特に注目しておきたい点である。言うまでもなく点画は、用筆・運筆という筆使いによって形成されるものである。特に送筆部の折れや曲がり、終筆部のはね・払いは、漢字・仮名ともに微妙な筆圧の変化や、次画へのつながりを要求される。これらのことを意識し、感得するためには、学習具の工夫も求められよう。

 全日本書写書道教育研究会(全書研)や全国大学書写書道教育学会での近年の調査や実践研究によって、小学校低学年段階においても、弾力性のある学習具(水筆や毛筆など)に親しむことで点画の書き方を意識することにつながることが、分かってきている。願わくは、小学校三学年から始まる毛筆による書写学習に備える意味でも、また「文字文化」の一端に早くに触れるという意味においても、小学校低学年からこうした学習具の使用ができるようになることを期待したい。
書写に「相手意識」を

 また、『国語ワーキンググループにおける審議の取りま(本紙2面へ続く)



(書道美術新聞 第1091号1面 2017年1月15日付)



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