逝世50年「于右任回顧展」 掲載日: 14年02月15日 |
于右任(1879-1964)于右任4月、東京で開催へ
本社など主催で
“当代の草聖”84点一堂に
激動の二十世紀の中国において孫文らが主導した民主革命に深く関わった有力政治家で、文化人としても中国近・現代書法史を彩る代表的書家の一人として特に草書をよくし、「標準草書」の創成、普及に情熱を傾け“当代の草聖”と称される于右任(う・ゆうじん=1879〜1964)の東京では初めてとなる本格回顧展が、4月23日から28日まで、池袋の東京芸術劇場で開かれる。
同展は、主催は美術新聞社と台北経済文化代表処(台湾の駐日大使館に当たる)、それに于右任の代表作などを幅広く収蔵して知られる台北の国立歴史博物館の3者。
展示予定の作品はすべて台湾側の提供による、日本ではいずれも初公開の優作であり、今春必見の一展となりそうだ。
◇ ◇ ◇于右任「行書五律/東方有一士…」
同「草書四字聯/天驥独嘯」
同展は、于右任の没後50周年を記念した企画展で、出品予定作品は、台湾の国立歴史博物館収蔵の37点と、同じく台湾の民間所蔵の47点の合わせて84点で、その他の関係資料なども展示する計画だが、詳細は未定。
また、会期初日の4月23日(水)午後には、台湾側の関係者や要人も参加して開幕式と記念イベントも計画中で、イベントでは于右任の書に関する日台の専門家による講演会やパネル討議などが検討されており、全出品作品を収録した記念作品集(萱原書房刊)も刊行の予定で、準備が進められている。
◇
“当代の草聖”于右任の経歴は、実に多彩で変化に富んでいる。
于右任は1879年に西安北郊の陝西省三原県に生まれた。
1903年に科挙に合格するが、その翌年に出した自作の詩集が元で清朝政府に挙人の資格を剥奪されたばかりか、危険人物として指名手配の身となり、名前を変えるなどして逃げ延びて日本に留学。
東京で孫文と運命的な出会いを持ち、その革命結社・中国同盟会に加入した(1906)ことが、政治の道へのきっかけとなった。
そして清朝を倒した辛亥革命(1911)では、日本で学んだ新聞事業のノウハウを生かして度重なる弾圧にも屈せず次々に新たな新聞を創刊するなどして、当時の民衆に対する最も大きな影響力を維持し続け、革命成就を側面から支えたというから、その人となりが紹介される折の“レッテル”の1つ「ジャーナリスト」は、彼が20代で早くも手にした一大勲章といっていいようだ。
そうした経緯から、1912年の中華民国臨時政府樹立や、1926年の国民政府設立などにも当然のこと深く関わり、またいわゆる“国共内戦”の苦難期を経て戦後は蒋介石と共に台湾に渡り、台湾政府の要職を終生歴任して1964年、86歳で波乱の生涯を終えたのだが、その「書」との関わりはというと、やはり科挙の受験対策のため初唐の大家や柳公権、趙孟頫などを精習したのがきっかけというから、年季の面では政治よりも長いわけである。
そしてこうして帖学で書に目覚めたこの若者が、二十世紀初頭に勃興した碑学に触発されないはずはなく、すぐに北魏書などの魅力に取りつかれて幅広く深く学び、さらには宋元から明清、とりわけ趙之謙や康有為に傾倒していったというその書遍歴を知ると、その書がとても余技とはいえない水準にある理由も分かるというものである。
その于右任が、多忙な政務の傍ら有志を糾合して「標準草書社」を興したのが1932年のことで、以後は彼自身も二王、智永、懐素らの研究に打ち込んで書風を一変させるのだが、その真意は、新しい国造りの先頭に立って時代の趨勢を直視する中で、文字生活を昔ながらの楷書・行書から解放して実用性を高め効率を高めるため、日常筆記を草書主体に切り換えようという問題提起であった。
そしてその方策として、古来より思い思いに作られてきた草書の書体を整理し標準化して、読みやすく、書きやすく、正確で、美しいという4要素を備えた規範性のある草書の標準書体、いわゆる「標準草書」の創成に取り組んだのが、「標準草書社」結成以後の于右任の「書家」としての足跡である。
だから、晩年の于右任が作品をもっぱら草書で書いたのも、1936年に「第一版」を公刊してから最晩年に至るまで、「標準草書」に実に10次に及ぶ改訂、修訂を重ねた努力と軌を一にしたものといえるわけで、その書家人生をまさに「草書」に賭けた于右任の書の実相に接することのできる得難い機会が今春の回顧展であり、開幕が待たれるところである。
本展に関する問い合わせ等は、TEL03‐3462‐5251の美術新聞社/于右任回顧展準備室へ。
(書道美術新聞 第1024号1面 2014年2月15日付)
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